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新世代カットマン・小塩遥菜、無限の可能性を秘めた卓球イズム

更新日
インタビューに答える小塩遥菜選手

新世代のカットマンが現れた。小塩遥菜、現在14歳ながら全中でも優勝を果たし、Tリーグでは日本ペイントマレッツに所属、世界ジュニア選手権でも準優勝するなど世界を見据えた活躍をみせている。とは言っても言動はおとなしく、いつも控えめで目立つように大声をあげることもない。プレースタイルもカットマン、我慢の戦法だ。

現在JOCエリートアカデミーに所属する小塩は長﨑美柚選手、木原美悠選手 の2人と相部屋だ。目下、卓球界の注目の新世代の3人がJOCエリートアカデミーで同じ部屋で暮らしている。

カットマン・小塩の武器“横回転カット”

インタビューに答える小塩遥菜選手

2019年11月の世界ジュニア選手権、小塩は躍動した。カットで得点を取りにいき 、時折攻撃にも転じる、現代カットマンの戦法を武器に初戦から危なげない戦いを見せ、チャイニーズタイペイの于修婷選手を破ると、中国の石洵揺選手に4−0で完勝、トーナメント表をするすると駆け上がり、決勝まで駒を進めた。

今大会で、光ったのはカットだけではない。見るものをあっと言わせたのが、何度か横入れ(ネットを迂回させて入れること)を“狙って”みせたのだ。「石洵瑶選手とやる前のタイペイの選手とやった時に最後横入れして、それがなんか人に見られてて、『すごかったね、またやってよ』って言われて。狙ってたのもありますね」とおどけてみせる。

決勝では惜しくも同部屋の長﨑選手に敗れたものの、卓球界の新世代の台頭を世界に知らしめた。

カットマン・小塩の武器は独特のカットの変化にある。通常のカットマンが多用する下回転のカットと小塩独自の横回転のカットを織り交ぜるのだ。

通常のバックカットは下回転やナックル回転でゆっくり飛んでいく。滞空時間が長く、回転を見極め、返球の仕方に思考を巡らせる時間がある。

一方、横回転カットは右腕を振り上げ、球を横からこするように振り抜く。横回転がかかったカットは、弾道が低く、独特の曲がりを見せ、相手が不用意にツッツキをしようものなら浮いてしまう。

その上、立ち方やフォームに大きな差はない。要するに小塩が腕を動かすまで、どちらのカットが繰り出されるかは相手にはわからない。2刀流のカットを自在に使い分けることで、相手を翻弄するのが小塩のセオリーだ。

相手がカットを読みきれず、あらぬ方向に「ホームラン」を打ってしまい、立ち尽くすシーンがあった。それほど小塩のカットは見にくいのだ。

得意技とも言える変則カット、一体いつ身に着けたのだろうか。「気づいたらできてたんです。多分なんですけど普通のツッツキができなくて、勝手に横になったって感じ」と事も無げにこう言い放つのは謙遜なのかもしれない。 それどころか「私、運動神経よくないんです」と言ってはばからない。そんなに弱気で大丈夫?こちらが少し心配になってしまうほどだ。

スポーツエリート一家に生まれた14歳小塩の卓球イズム

試合をしている小塩遥菜選手
(写真:第50回全国中学校卓球大会)

もともと小塩はスポーツエリート一家に生まれた。父がソフトテニスの選手で母は元プロボクサーで現在は十六銀行の卓球チームのコーチをしている。小塩も幼少期からボクシングと卓球を掛け持ちしていた時期もある。「足運びとか動体視力とか、卓球とボクシングは似ているところがあるんです」。スポーツエリートに育つかと思った小塩に意外なライバルが生まれる。それが妹だ。運動能力では妹にかなわないと感じることがあったという。「運動神経は全部あっちにいっちゃって。走るのも速いし、ジャンプ力とかも妹の方があるんですよ。学校の体力テストとかも妹はずっとAなんですけど、私はCとかで…。」と苦笑する。性格も引っ込み思案で慎重な小塩に対して、大胆で天真爛漫な妹。今でも卓球をすることがあるが「全部運動神経でカバーしてくるんで(笑)。何してくるかわかんないんで読めないです」。

運動神経ではトップになれない。ならば頭を使って巻き返す――。冷静に相手を見据えるカットマンの戦型は小塩と相性がよかった。「技術的なところだと、自分はサーブの時に考えることが多くて、レシーブの時も考えるんですけど、サーブの時に相手にプレッシャーをかけることがどれだけ出来るか考えています」。もちろん技術的には申し分ないのは実績が証明している。知りたいのはメンタルの部分だ。

インタビューに答える小塩遥菜選手

「メンタルの部分ですか…。一番は自分より相手を どれだけイライラさせることが出来るか、ですね」。ようやく小塩の卓球イズムが現れてきた。

「相手がイライラしてるのはわかります。実はそこを見ながらプレーしていることもあるんです」。
試合中の“イライラ”は何気ないところに現れる。何気ない様子を注意深く観察している。例えばゲーム間のベンチでの些細なやり取り。「ベンチとかに戻ったのにコーチのアドバイスを無視してたり、コーチにものすごくキレてるな、とか」。

相手を焦らし、イライラさせてミスを誘う。時には予想外の奇襲に転じ、切り崩すのが小塩の卓球だ。国際大会では好成績を残すも、昨年から参戦したTリーグではシングルス2試合に登場するも勝ち星は挙げられていない。「特に最初の大阪の試合(日本生命レッドエルフ)は今までにないぐらい緊張しちゃって。応援の声もすごくて、自分のペースが乱されてしまったんです」。飄々としているがそこはまだ14歳。課題は多い。

最後に、少し意地悪な質問をしてみた。小塩が今後上位を目指すにあたり、現在世界ランキング3位と日本女子を牽引する伊藤美誠選手とは必ず戦うことになるだろう。

「今、大舞台で伊藤選手と勝負するとしたら…?」

「うーん…」と長考すると「カットだけじゃ絶対負けるので勝てなかったとしても、自分の今出来る技術とか自分の特徴の変化をやったら少しぐらい点数とれるかなぁ。攻めも実はすごい練習してるので。楽しみにしてください」と堅実な答えが返ってきた。

無限の可能性を秘めた14歳は次戦、どんな戦いぶりを見せるのか。いっときも目が離せない。

文:武田鼎(Rallys編集部)

小塩遥菜選手プロフィール
試合をしている小塩遥菜選手
所属
JOCエリートアカデミー
生年月日
2005年8月3日
戦型
右シェーク守備型
使用用具
ラケット:KOJI MATSUSHITA(松下浩二)
フォアラバー:V>15Extra(エキストラ)
バックラバー:カールP-1R ソフト