【インタビュー】村松 雄斗 選手
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村松雄斗はとらえどころのない選手だ。世界トップランカーと大接戦を演じたかと思えば格下の相手にあっさりと負けることもある。プレー中も大声で吼えることもなければ、ことさら悔しがる顔も見せない。
プレーもとらえどころがない。戦型は今や希少種となったカットマンだ。そこに「我流で身につけた」バックハンドドライブという“スパイス”を織り交ぜ、世界ランク30位まで勝ち上がってきた。
そのプレースタイルこそ往年の松下浩二を彷彿とさせるが、性格は真逆と言っていい。松下は村松をこう評する「才能はピカイチで世界10位を狙える選手。ただ…」考え込むように一言紡いだ。「精神面にまだ課題はある」。
「みんなに言われるんですよ、精神を鍛えろって。松岡修造さんの本を読んでみるけど、何をすればいいかわからないですよね」。朴訥とした語り口の村松、若いアスリートにありがちな向こう気の強い言葉が出ることはない。それどころか「なんかイマイチ熱くなれないんですよ」とまで言い切る。そんな「燃えない男」が泣きに泣いた。人目もはばからずに。2017年ドイツ世界選手権大会、モンテイロ(ポルトガル)戦でベスト32を決めた試合の直後のことだ。
初めての挫折、そして…
当時をこう振り返る。「それまでいい結果がでなくて。辛かった。はじめて自分を追い込んだ」。それまで卓球エリート街道を歩んできた村松にとって、初めての挫折だった。
村松は生粋の卓球一家に生まれた。親戚が経営する卓球教室で直径4cmの白球と出会う。いわばラケットを握るのは必然だった。8歳の頃、祖父の指導で攻撃マンからカットマンに転向、それがピタリとハマった。カットマンの練習半年後、小学2年生以下の大会で全国優勝を果たした。
その後もエリートアカデミーに選出、身長180cmという恵まれた体格を武器に順調に卓球選手としてのキャリアを歩む、はずだった。そこで訪れたのが「初めての挫折」だった。「2017年の世界選手権のメンバーに選ばれて以降、全然結果が出なくなっちゃって」。その年のカタールオープンでは格下のアブデル=カデル・サリフ(世界ランク119位)に0−4のストレート負けを喫してしまう。「負けが見え始めるとどうしても弱気になってしまうんです」。その後の大会でも思ったように勝てない。「自分がふがいなくて。ずっと自分に腹が立っていた」。
そこからは苦手なウエイトトレーニングにも取り組み、徹底的に自分を追い込んだ。「僕の戦形はカットと攻撃で2つの練習が必要なんです。ならば人の2倍練習すればいい」。自分の心の奥に“勝ちたい”という火がくすぶっていることに気づいた。
僕の卓球は「2倍」楽しい
だからこそフルセットまでもつれたモンテイロ戦を制した瞬間、喜びを爆発させた。両手を天に突き上げ飛び上がり吼えた。「ベスト32くらいで喜ぶなって言われます。でもあの1試合は僕にとってそれほど大きな勝ちなんです」。それまで“熱さを知らなかった”村松に火がついた瞬間だった。
昨年から始めたドイツ・ブンデスリーガでの修行も糧になっている。「1年で契約が打ち切られるのがプロの世界。シビアなプロの世界を肌身で感じました」。そう語る村松の目は勝負師のそれだ。
現在世界ランク30位。目指すは10位以内、異次元の壁に挑む。そこはもはやカットマンが姿を消す未知の領域だ。それでもなぜ、村松は独自の戦型を貫くのか。「楽しいからですよ。僕の卓球はカットと攻撃もあるから普通の卓球選手より、2倍楽しい。粘って粘っていきなり打ち込んだ時は最高っすね」。気になるのは2020年だ。「まだ先のことはわかんないっす。でもカットでも十分世界で戦えると思いますよ」。とらえどころのない男は飄々と世界を伺う。
(取材・文 武田鼎 RALLYS編集部)